一妻多夫の生き物、ミツバチとチョウチンアンコウの奇妙な生涯

前回の記事で、アシカ科やアザラシ、ライオンは一夫多妻という話をしましたが、実は私達と同じ一夫一妻の配偶システムをとっている哺乳類は全体の5%にも満たないらしいということ、きいたことありますか?

一方で鳥類はほとんどが一夫一妻の配偶システムをとっています。これは哺乳類のオスが子育てにあまり関わらず、鳥類は夫婦で子育てするからなんですね。

アシカやアザラシのような一夫多妻のハーレム状態があれば、一妻多夫の逆ハーレムもあります。オスやメスがどんな生涯を送っているのか気になるところですよね。

今回はそんな一妻多夫のシステムをとっている生き物、ミツバチチョウチンアンコウの生涯を紹介していきます!

一妻多夫の生物1-ミツバチ

花とミツバチ

一妻多夫のシステムをとっているので一番有名なのがミツバチではないでしょうか。一匹の女王蜂に対して大勢のオス蜂が交尾をする、まさに一妻多夫です。

花で蜜を吸う働き蜂がオスだと思われそうですが、実は働き蜂は女王蜂にならなかったメス蜂なので、働き蜂は全員がメスです。

オス蜂の仕事は交尾のみで、交尾が終わると死んでしまいます。

一方で女王蜂以外のメス蜂は働き蜂となって巣作り、育児、食料調達などせっせと働き、出産することはありません

出産しないというよりは生殖能力がないのです。女王蜂が出すフェロモンで生殖能力が抑えられているのです。すごいですね。

フェロモンで能力が押さえつけられるなんて、なんだか魔術で洗脳されているかのようで少し怖くもあります。

出産できない働き蜂は産卵管が変形した毒針があります。 そのため、オス蜂には毒針がありません

青い花とミツバチ

ミツバチはかなり特殊で、有精卵から生まれた蜂のみがメス無精卵から生まれた蜂がオスとなります。

女王蜂は体内に精子を溜めこんでいるので、メスを生みたい時にだけ受精させるのです。

そのため女王蜂は巣の中でオスを生む部屋、メスを生む部屋、女王蜂候補の卵を生む部屋にそれぞれ移動して産卵することができます。

女王蜂候補で産卵された卵は10個ほどあり、そこから生死をかけたバトルが繰り広げられ、最後に残った1匹だけがクィーンとなるのです。

つまり生き残るためには、姉妹で殺し合いをしなければいけないというわけですね。

この時、古い女王蜂は働き蜂とオス蜂をある程度引き連れて移動していきます。

ピンクの花とミツバチ

ちなみに女王蜂と女王蜂候補だけが食べるのが、 健康美容食品として有名な 「ロイヤルゼリー」です。

英語で「Royal jelly」で、「royal」は「王室の」というような意味があり、まさに女王だけが食べるのを許されたゼリーという意味になりますね。

栄養素の種類が豊富免疫力も上がると言われているロイヤルゼリーを食べた女王蜂は、働き蜂の2倍以上になり、寿命も働き蜂が平均して3カ月ほどなのに対して、女王蜂はおよそ3年生きるほどの効果があります。

そんなロイヤルゼリーは人間の成長を促すとも言われているのですが、乳幼児にハチミツを与えてはいけないと言われているのと同じように、6歳未満の子供に与えてはいけないと言われているのでご注意くださいね。

ホルモンバランス自律神経の乱れを整えるのに効果があると言われているので、特に女性の方はチェックしてみるといいかもしれませんね。

ミツバチは無精卵からオスが生まれると先述しましたが、しばらく女王蜂がいなかったら働き蜂が交尾をしないまま無精卵を産むこともあるそうです。

父親がいなくても母親だけで子供を産めるなんて不思議ですよね。ちなみに家庭でよく食べられているニワトリの無精卵は、どんなにあたためてあげても孵化しないです。

ミツバチと似たシステムをとるハチもいますが、ハチの種類によってスタイルは様々です。

一妻多夫の生物2-チョウチンアンコウ

筆者が海の生物に関心をもつきっかけになったのが「チョウチンアンコウ」。こちらではチョウチンアンコウ類の中での、いくつかの種類を総してチョウチンアンコウと呼ばせてもらいます。

頭に獲物を呼び寄せるための提灯をぶら下げて、暗い深海を泳ぐチョウチンアンコウ。

提灯は自らの力で光らせているのではなく、あの提灯の部分に自ら光る細菌バクテリアを飼っていて光っているのです。

頭に提灯をぶら下げている姿をしているのはメスだけです。そしてメスが何十センチという大きさになるのに対して、オスは数センチというとても小さな大きさです。

チョウチンアンコウのオスはメスを見かけると、お腹にガブっと噛みつきます。そして噛みついたまま、オスはメスに寄生します。

噛みついたままずっと離れなくなったまま皮膚がつながり、血管も繋がっていくのです。

そしてオスはメスから栄養をもらいながら、メスの体に溶けていくように一体化していきます。

そのうち心臓も脳もメスの体に吸収され、精巣だけが発達していくのです。

つまりチョウチンアンコウのオスは、交尾しながら吸収されていき、生きたまま死んでいくという終わり方をするのですね。

吸収されていく期間はおよそ1週間ほどなのだそうです。一匹のメスに対し、複数のオスが寄生することもよくあります。

メスはオスを引き寄せるフェロモンを放出しているので、オスが思わずメスのお腹にかぶりつきたくなる衝動に駆られるのでしょうね。

女王蜂でもフェロモンでコントロールしていましたし、脳にダイレクトに影響を与えるフェロモンってすごいですね。どんな匂いをしているのかなど気になるところです!

チョウチンアンコウの中でもミツクリエナガチョウチンアンコウ科などがこういった配偶システムをとっており、通常私達が食べるアンコウのオスは寄生したりしません。

チョウチンアンコウのオスは一見なんだか虚しい生涯のように見えます。

でも少し考えてみると、メスにも出会えず他の大きな魚に食べられて苦しみながら死んでいくより、子孫を残しつつ、知らない間に痛みも知らずに死んでいたという終わり方も悪くないようにも思えます。

人間の目からしたら自分の子供の姿を見れずに死んでしまうなんてと思いますが、カマキリのようにメスに食べられてしまうよりはまだマシなような気がしますよね。

他にも一妻多夫はモリアオガエルやほんの一部の鳥類などに見られますが、哺乳類ではあまり聞きません。

でも人間社会でも男性の比率が多かった場合には一妻多夫の制度をとらざるを得ない場合もあり、日本でも江戸時代には一妻多夫の制度をとっていた時もあったそうです。

生のチョウチンアンコウは見られるの?

深海の中に住むチョウチンアンコウ、生きている姿を見てみたいですよね。

日本で最も深い深海は静岡県の「駿河湾」です。最深部で2500メートルある駿河湾の特性を活かした沼津市にある「沼津港深海水族館」では、珍しい深海魚が多く展示されています。

チョウチンアンコウ類も展示されている時もあります。という言い方をするのは、沼津周辺で運良くチョウチンアンコウが獲れた時にだけ、生きている間のみ展示されることがあるのです。

ただ例えチョウチンアンコウが獲れても深海と水族館では環境がやはり違いますし、獲れた時点で弱っていることもあるので、展示がほんの数時間だったということもあります。

ちなみに深海魚水族館は深海と全く同じ環境にしてあるわけではなく、水圧はそのままです。展示までに深海魚たちの体長を整えるなどの工夫をしています。

沼津深海水族館は深海魚専門なので、イルカやアシカのショーなど全くない、まさにディープな大人の水族館です。

その分、水族館のわりに入館料は高校生以上で1600円(2020年5月時点)という、割とお値打ちな料金。

生ではありませんが、チョウチンアンコウの仲間の標本は展示されています。こちらは明確な種類はわかっていないようです。

その他にも世界で唯一、冷凍のシーラカンスが展示されていたり、生でも珍しい深海魚が見られたりできるので 、沼津に行った際にはぜひ行ってみてくださいね。

同じ静岡県の「東海大学海洋学部博物館」でも全長50センチのチョウチンアンコウ標本が展示されています。

東海大学海洋科学博物館」は恐竜についての展示がされている「東海大学自然史博物館」とあわせても、高校生以上1800円(2020年5月時点)という料金です。

あのさかなクンも絶賛している充実した博物館なので、詳細は沼津深海水族館と合わせて改めてしっかりレポートさせてもらいたいと思います!

チョウチンアンコウ標本

出典:東海大学海洋科学博物館、公式サイト

また駿河湾は日本で唯一サクラエビ漁をしているところです。桜海老も深海で生活をしていて、夜だけ水深数十メートルくらいまで上がってくるのです。

生のサクラエビも食べられる時期のあるとても魅力的なところですので、水族館と同様に、また改めてサイトで紹介させてもらいますね。

以前サイトで紹介した新江ノ島水族館でもチョウチンアンコウの標本展示をしていますよ。

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ライトアップされたクラゲ

それぞれの施設の営業については公式サイトなどで確認しておでかけくださいね。

一妻多夫とは逆に一夫多妻の生き物にも興味がある方は、以前に書いたアシカとセイウチ科が一夫多妻のシステムをとっているという記事も、よかったらあわせて読んでみてください。

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アザラシ

今回チョウチンアンコウについて紹介させてもらいましたが、筆者がチョウチンアンコウに興味をもったきっかけになったのが、柚木麻子さんの「ナイルパーチの女子会」という小説です。

2015年に山本周五郎賞を受賞した作品です。自分が凶暴だと気づいていないナイルパーチの生態に似た女性の痛々しさと、女性ならではの毒々しさが秀逸に描かれています。

感動するような話ではないのですが、柚木麻子さん独特のその世界に陶酔できる表現力に引き込まれる小説なので、STAY HOME時間が長くなって何か読んでみたいという方におすすめです。

記事に書いたチョウチンアンコウのような雑学も豊富で、読み終わったら水族館に行ってみたくなるような小説ですよ。

ミツバチ
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