「Aal izz well/きっと、うまくいく」から見えるインド事情

コロナ対策で全国各地で外出自粛要請が出ている中、お出かけ記事を書き続けるというのも場違いな気がして、今回は旅行好きの間でも人気のインド社会事情についてとりあげてみたいと思います。

筆者はとある米系IT会社で働いていた過去があるのですが、その親元の会社のトップにインドの方が就任されました。

その会社ではマーケティングリサーチをしていた時期もあり、リサーチの依頼先であるインドの会社のリサーチャーとかなりやりとりをしていたことがありました。

インドの人って本当に努力家です。その時からインドが気になって仕方がなくなり、気づけば世界的にもIT関連のトップにインド出身の方が目立つようになっていました。

今回は筆者の好きなインド映画「Aal izz well3 idiots」、日本タイトルでは「きっと、うまくいく」をとりあげながらインドの社会事情に触れていきたいと思います。

最終的なネタバレはないのですが、ストーリーの展開に触れる部分もありますので、観る予定の方は先に観ておいてくださいね。

スピルバーグ絶賛のインド映画「Aal izz well/きっと、うまくいく」

日本では「きっと、うまくいく」という邦題で2013年に公開された映画、「Aal izz well3 idiots」。

巨匠、スティーヴン・スピルバーグ監督が絶賛した、ハリウッドならぬインド生まれのボリウッド作品です。観た方も多いのではないでしょうか。

インドの超難関理系大学を舞台に、ユーモア溢れるヒューマンストーリーを描いています。

ここでは、爽快なコメディの背景に描かれたインド事情をピックアップしていきたいと思います。

インドのエンジニア事情

エンジニア

グーグルCEOサンダーピチャイ氏、マイクロソフトCEOサティアナデラ氏、Adobe CEOシャンタヌアンラヤン氏。グローバルで活躍する大手IT会社のトップにはインド人が就任しています。

映画でも学生たちがエンジニアになるべく切磋琢磨している様子が描かれていますが、インドではエンジニアという職業が大人気なのです。

なぜそんなにエンジニアが人気なのでしょうか。

それにはインドにはびこるカースト制度が関係します。

いまだインドに根強くはびこるカースト制度で、苦しい生活を余儀なくされる人は大勢います。

そのカースト制度に縛られずに職に就けるのがエンジニアです。

エンジニアならカーストに関係なくいい待遇が受けられるので、若者は必死になってエンジニアになろうとします。

教育こそが人生で成功するチャンスなのです。

そのため、インドで最高峰と言われるインド工科大学のレベルは群を抜いています。

インド工科大学
Indian Institute Technology

あの名門マサチューセッツ工科大学よりも難しいと言われているほどです。

グーグルCEOサンダーピチャイ氏や元ソフトバンク副社長のニケシュ・アローラ氏などがこの大学の出身者です。

優秀なエンジニアであれば、大手IT企業から声がかけられ、初任給でも1500万円以上の年収が期待できると言われています。

日本人の新卒でもそんなに稼げないのですから、みな死に物狂いでエンジニアを目指すわけです。

特にインドは英語に堪能な人材が多く、臆することなく海外に出ていくので、世界で活躍するには最適な民族と言えます。

視点を変えれば、インドの悪しき慣習である「カースト制度」が、世界のIT事業のレベルを引き上げたといっても過言ではありません。

しかしインドでのエンジニアレベルが急速に高まる一方で、今度はまた別の問題が発生しています。

問題視される学生の自殺率

どんなにインド人が優秀でも、全員がエンジニアになれるわけではありません。

学校にはもちろん定員があり、狭き門に入るために過酷な受験戦争を戦い抜かなければならないのです。

受験に勝つため塾に通おうとすればそれなりにお金がかかり、家族は大枚をはたき一丸となって受験生を応援します。

とはいえ、どれだけ勉強しても周りの受験生も必死で勉強しているわけですから、相対的な成績が芳しくないこともあります。

受験生は自分に夢を託す家族からのプレッシャーに耐えられず、自殺を選択することもあります。

映画の中でも、卒業制作を認めてもらえなかった学生のジョイ・ロボが自殺をしてしまうという非常に悲しいシーンがありました。

映画のキーとなる3人のうちの1人、ラージュも自らの退学か親友ランチョーの退学かを迫られ、自殺を図ります。

留年にしろ退学にしろ、日本にとっては死ぬほどのことではないかもしれません。

ですがインドでは家族がカースト地獄から抜け出すために、自己犠牲を払ってまで自分を大学に行かせてくれています。

ラージュの場合だと、母は長い間服も買い替えず、父は半身不随なのに満足な治療もできないという有り様です。

その家族のことを思うと、退学にでもなったらとても生きてはいけない環境なのです。

インドで工学系のレベルが高まる背景には、文字通り「命がけ」で勉強をしている若者達の姿があるわけです。

婚姻とダウリー問題

インドの結婚

もう一つ、映画の中でインドにはびこる悲しい慣習をえぐり出しています。

結婚する時の持参金、「ダウリー」です。

インドでは結婚する時に、莫大な持参金が必要とされています。

どのくらいかというと、インドで娘が3人いたら破産すると言われるほどの金額です。

映画の中では、ラージュの姉が持参金が用意できないため未婚のままでした。

その持参金はラージュがエンジニアになって工面できると家族からも期待が寄せられていました。

インドではかなり前から法律でダウリ―が禁止されているのですが、習慣化している為に今なお根強く残っています。

ダウリーにはなにかと揉め事が多く、花嫁が殺されるケースも見かけられます。

花婿側が台所にいる花嫁に火をつけ、事故死にみせかけるというものです。

ダウリ―の額が低いと自分の親族が見下されたということで、花婿が手をかけなくても、花婿の家族や親戚がそういったことをすることもあるそうです。

また将来ダウリ―が必要になることから、娘を生む花嫁に虐待がかけられることもあります。

その虐待に耐えきれず、自ら命を絶つインド人女性もいます。

そのため、インドの地方では女性出生率がゼロというところもあります。

妊娠している時点で女児だとわかると、「自主的に子供を産まない」という決断に至ります。

今のインドでは女児には生産性がないと見られ、貧しい家庭では負債となる女児の出産は悲観され、義理の家族の圧力もあってそういったケースになることが多いのです。

女性にとってはなんとも生きにくい社会です。

インド人女性こそエンジニアになってほしいものですが、一般的に女性には教育投資もされない社会ですので、展望はよくありません。

Aal izz well(きっと、うまくいく)のメッセージが語るものとは

明るい映画の中に、あまりに自然に描き出されているインドの社会問題について焦点を当ててみました。

映画の中では、大学に卒業できなくても、エンジニアになれなくても、持参金が用意できなくても、「Aal izz well(きっと、うまくいく)」と笑いとばしてくれます。

どんな深刻な事態でも、どんな人生を選んでも、明るく笑っていられるよう励みを与える言葉です。

この映画が伝えていることは全国いつの時代も普遍的なテーマで、映像を通して生きる力を見せつけられる内容となっています。

タージマハル
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