以下の記事は 2025年4月10日にYahoo!ニュースでも紹介された記事です。
これまでの人生で、和太鼓や琴、尺八、三味線など和楽器を演奏したことはあるでしょうか?おそらくほとんどの方、特に若い世代では「ない」と答えることが多いのでは。生まれも育ちも日本だという日本人でも、自国の伝統的な文化について触れる機会が少ないのは、現代そんなに珍しい事でもありません。
そんなご時世で、横浜を拠点に日本の民謡を津軽三味線と軽快なトークで紹介する、奇跡のような若者に出会いました。彼は生まれも育ちもアメリカ・ニューヨークのブルックリンという Zack Bullish(ザック・ブリッシュ)さん。
一体彼はなぜ日本にやって来たのか?その理由を探ると、実に面白い答えが返ってきました。

春の気配を感じられる風が吹き始めた2025年 3 月の午後。翌日に惜しまれながら閉店となった横浜元町にある日本茶カフェ「茶倉」で、Zack さんの津軽三味線演奏会が開かれました。
Zack さんはアメリカ人にして、プロの津軽三味線奏者。茶倉で Zack さんの演奏会が開かれるのはこれで 2 回目。
以前に津軽三味線を披露したところ大盛況で、今回の演奏会が開かれることになったのです。

演奏会は秋田・青森県の民謡に始まり、宮城県や三重県、そして神奈川県の民謡まで、Zack さんの流暢な日本語でのわかりやすい説明と共に紹介されていきます。
Zack さん流の曲の特徴を伝えるトークが面白く、演奏会にいるほとんどの人が「そうなんだ」と興味津々で聞き入ってしまうのです。

弾いたことがないという人でもご存じのように、三味線は弦楽器では珍しく弦が 3 本しかないのが特徴。それなのに、楽器一つでまるでオーケストラを前にしているような深みを感じるのが不思議です。彼の津軽三味線の演奏は、心になにかを訴えかけてきます。

演奏会最後の曲では、Zack さんがアレンジした「津軽じょんから節」を聞かせてもらいました。撥(バチ)の反対側を使って奏でる、Zack さんならではのユニークなスタイルも見入ってしまいますが、なにより日本海が背景に見えてくるほど、弦を叩く音が魂を揺さぶり続けます。

演奏会の最後は茶倉の閉店という寂しさと、Zack さんの津軽三味線に感動して、涙する人も。彼の奏でる日本民謡が、その場にいる人たちの心を繋いだかのようにも思えました。

演奏後は来店した人たち一人ずつに丁寧な挨拶をする Zack さんの姿が。筆者が参加したのは昼の部でしたが、昼の部で感動した人が夜の部も空きが出たなら予約したいという人がいたほど。
実は筆者は横浜市内で津軽三味線を弾く Zack さんを偶然見かけてその演奏に感動し、今回の演奏会後にインタビューを依頼していたのですが、感動に包まれたお客さんたちは余韻に浸って帰るのが惜しいように見えました。

次の予定があるという Zack さんとのインタビューは、帰り支度をしながら。Zack さんは津軽三味線の弦を丁寧にほどきながら、自分が日本に来た経緯などに答えてくれました。
Zack さんが日本に興味を持ち始めたのは、物心がついた頃。近代的な日本アニメやゲームなどから入ったわけで
はありません。日本には行ったこともないし、親戚がいたわけでもない。なのに、なぜか幼児の頃に鳥居の絵を描いていたりしたのだとか。

「航空券の料金を自分で稼いだら日本に行っていいよ」と母親から言われた Zack さん。11 歳からバイトを始め、13 歳になって 2 週間ほど日本で滞在した後、次は⾧期間で滞在したいと留学を決意したのだそう。
帰国後はカフェ、ベビーシッター、ピアノの先生などバイトを掛け持ちして、「人生で一番の貯金額だった」というほどの学費を貯めて、日本に留学にきたのです。日本にはトータルすると 8 年ほど住んでいます。

「和楽器をやってみたい」と感じていた Zack さんは、早稲田大学進学時にサークルで津軽三味線に初めて出会い、これだと感じたのだとか。Zack さんの津軽三味線歴はかれこれ 10 年になります。
通常であれば 2 つの流派の三味線を習うことはないのですが、Zack さんの場合は特別に山田流、高橋流を習っています。

「今の日本は民謡が求められていない時代。何十年やっている人でも仕事を続けていくのが難しいような時に、敢えて民謡に挑戦しています。
大きなホールとかではなかなか津軽三味線の演奏会をやっていなくて、あまり世間に知られる機会がなかったから、良さが知られてないだけ。
もし相撲や歌舞伎、茶道みたいに外国人観光客が触れやすいようになっていったら、逆に日本にいる一般の人にも知ってもらえるんじゃないかな?」と Zack さん。

「民謡はかっこいいので、より多くの子供がその魅力に気付けるよう、聞く機会が増えて欲しい。予算をかけて企画して、民謡が注目されるようになって欲しい。日本の伝統文化を国単位で誇りにして欲しい」という言葉は、“日本人よりも日本人”である魂の叫び。
「演奏で感動してもらえるのがなによりの幸せ」と語る Zack さんは、津軽三味線を演奏する時「祖母を思い出す」「遠く離れたこんなところで、生まれ故郷の青森県民謡が聞けるなんて」と感謝されることもしばしば。

日本人ではない Zack さんが、津軽三味線を心から敬い愛して演奏することで、海外の人だけでなく日本人にも津軽三味線と日本の伝統文化の良さを知るきっかけになっていると感じました。
彼の存在そのものを知ることで、今の時代を生きる子供達がいつか大人になって民謡を聞いた時に「懐かしい」と思える未来があるのではないかと期待してしまいます。

「この記事を読んで、今まで興味がなかった人も民謡やほかの津軽三味線奏者にも興味を持ってもらえたら」と快く取材に応じてくれた Zack さん。
演奏動画をこちらに掲載したいところなのですが、ここでは敢えてご紹介しません。ぜひ Zack さんが紹介する民謡トークも聞ける演奏会に行って欲しいからです。そして全身で音を感じとって欲しい、この感動が多くの人に届いて欲しいと願います。
今後のイベント情報などは、Zack さんのインスタグラムからご確認ください。また Zack さんのターニングポイントや津軽三味線についても後日取材をさせてもらったので、今度紹介させてもらう予定です。
※取材時の内容となります。
Zack Bullish
インスタグラム:shamisendinglove
活動拠点:横浜市を拠点に主に関東エリアなどで演奏会を開催